フリーアニメーター 田舎暮らし 

田舎で暮らすフリーアニメーターの日々を気ままに綴っています。

拘束

春です。田舎で暮らすフリーアニメーターのブログ、いなめーたーブログ久々の更新です。

毎度のことながら、筆が遅く、かつ考えを纏めるのに時間がかかります。余計なことをつらつら描きたがるんでしょうね、脱線の常習犯です。

 

今回は年末から3月までの間に受けた拘束について記事にしようと思います。だいぶ過去のことも一緒に振り返るため、かなりふわっとした内容になることを予告しておきます。更に、「あまり充実した記事にならないかもなぁ…」と思って書き始めたのにダラダラと長くなってしまいました。ぜひお時間と心にゆとりのあるときに。

 ・・・・

拘束契約

会社にいた頃は全く聞き覚えの無かった「拘束契約」という言葉。初めて耳にしたのは、実際に拘束を受ける遥か前のこと。フリーランスになって半年くらいの頃だったと思う。電話口で「現在どこかしらで拘束を受けていらっしゃいますか」といった感じで切り出され、率直に「拘束とは何ですか?」と聞き返したことがある。

その時は会話を濁され、まともに教えて貰えなかったが、(受けてないならいいです、という感じで)言葉のニュアンスからなんとなく想像はできた。ある程度決まった作業時間を確約する、みたいなものかな?という程度には。

世の中にはそんな契約が合って、それで人気のアニメーターさんを確保できるんだなぁ、なるほど(憶測)。キーアニメーターと呼ばれるような方たちは、単に単価調整があるものだとばかり思っていたし、アニメーターの給料=出来高という脳みその自分としては目から鱗の案件だった。

 

拘束依頼予告

次に話題に出たのは、拘束依頼予告のような内容だった。

「まだ先の話だけど実際に拘束を頼みたいと思っていて、もしお願いしたら期間中空けといてもらえる?」といった感じの話だったと思う。そのとき自分が何と言って答えたのかは覚えていないが、詳細が分かったら教えて下さい、それから判断しますみたいな感じで返したのだろう。結局連絡をくれた制作さんとはそれ以降全く連絡を取ることはなく(よくあること)、同スタジオとはやりとりがあるものの、該当作品が動いているのかどうかも不明のままだ。

 

満を持して

そんな感じで自身の周囲から小出しにされ続けていた「拘束契約」。漸く() 実体験することになったのは、201811(くらい)のこと。

日頃お世話になっているスタジオさんから、あるテレビシリーズの拘束の話題が出た。自分がフリーランスになってはじめて取引をさせて貰った会社で、もうかれこれ4年半くらいのお付き合いがある。

 

同社からはレイアウトを多少と、隙間で第二原画を受けている。レイアウトの出来としては滅多に褒められるようなことはなく、かといってボロカスに言われるようなこともないレベル。それでも継続して依頼が入る程度の出来栄えだ。たいして二原は丁寧な人に頼みたい案件、社内で仕上げたい案件などでも相談してくれるような水準のようだ。

同作品ですでにレイアウトに携わらせてもらっている最中だったが、今回拘束を依頼されたのは、主に二原の仕事でという事だった。実際契約するかどうかという段階になって、やっと条件だの何だの、細かい実態を知ることができた。

 

拘束の詳細

拘束というのは実際の仕事量に関わらず固定給を出す、期間中は別の作品を受けないでor控えて、という契約。つまり、時間を確保していれば作業したカット数には関係なくお給料がいただけるのだ。そして、単なる固定給とは違い、作業分した分もきっちりいただける。スゴイ。

 ここで、新たに知りえた情報が、拘束にも種類があるという事。

 完全拘束と半拘束。読んで字のごとく、完全拘束はその作品のために100%時間を確保する、他の作品は一切受け付けない契約。半拘束は、作業時間のだいたい半分はその作品のために確保しておく契約。

…事実としてはどうか分からないが、説明上は上記のように捉えて構わないと思う。というのも、自分が他の作品にどれだけ携わっているかは厳密には取引先には分からないし、仕事の依頼が入ったときに受けられれば、他の時間に何をやっていても問題ない。当然、拘束時間の多い完全拘束の方が手当は大きい。実際に聞いたわけではないが(覚えてないだけかも)半拘束は半額くらいなんだろうか。この辺は会社によってもバラつきがありそうだ。

 

葛藤

まとまって決まった仕事と収入がある。これだけで収入の不安定な身としては飛びつきそうな話だが、何を思ったかOKを出すのに非常に躊躇った。自分がフリーランスになった理由まで考え出して、初めて起こる出来事にすごく臆病になっていた。

果たして、了解してもいいのだろうか。

好きな時に好きなだけ気ままにできる現状から、山のような仕事に終わりの見えない業務、次から次へと追加がやってくるあの地獄に戻ってしまうのでは?

拘束期間中に別社からもっと興味を惹かれるタイトルのお誘いがあったら断るしかなくなるのでは?

作画の仕事以外に仕事の幅や生き方、趣味との向き合い方や生活面を見直すために退社したのでは?

作画詰めになっていいのか?

作画詰めになっていいのか?

作画詰めになっていいのか?

・・・

そう、自分の葛藤の中心にあったのは「自由が失われること」だった。

自由になるために会社を出たのに、自分でそれを手放そうとしている矛盾に、どうしても精神的な引っ掛かりがあった。

 

そして、まぁ冒頭で切り出しているように、拘束を受けた。これに至ったメンタル的な経緯はおそらくあまり誰の役にも立たないだろうが、将来自分がまた同じようなことに陥らないとも限らない。念のため簡単に記しておく。

自分が拘束を受けることにした理由。

・そうホイホイあることじゃない、なんでも経験しとけ。

・拘束といっても永遠じゃない。(多分3~4か月くらい。)

・お給料がウマいぞ。

そうして、結局自身のチキンな部分も捨てきれず、間をとって半拘束ということに落ち着いた。報酬についても、ひとまずこのくらいで、こなした物量をみながら都度交渉という話に落ち着いた。

 

拘束を受けて

しかし、この一見良い待遇が逆に自分の良心を苦しめた。拘束を受けた数か月間、タイミングが合わずに大した物量をこなせなかったのである。どのくらいできなかったかというと、拘束なんて受けてなくてもさして変わりないくらいの普段通りの量しかこなせていなかったのである。

ここで自分を苦しめたのは「固定でいくらか貰っているのにいつもと変わらない成果」というだけでなく、「こなした物量に応じて評価がかわる」という条件だった。これだけの成果しか出せなかったのだから、次はもう無いかもな…などと考えだした。

先方は都度「タイミングを合わせられずに申し訳ない」という言葉をくれ、上がりに対しても「丁寧にありがとうございます」と言っていただけるだけに、もう胸が痛くて仕方なかった。

因みに、半拘束ということで普段より他社の仕事を減らしたり、1か月の作業日数のうち半分は確保しているので、自分に非がないといえばそうなのでが、そういう問題ではなかった。そのときは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

スケジュール調整については、拘束が初めてという事もあり完全に先方に任せきり状態だった。週の頭だかそのくらいに、「今週末このくらい出る予定です」という連絡を貰い、その都度自分の都合を確認する手筈だった。

が、手筈通りに連絡が来たのは12度だった。ほとんどが実際に仕事が発生してから「明日送っていいですか?」だった。しばらくはそんな感じでも特に気にしなかったのだが、1ヶ月経ったぐらいのタイミングで無駄な日が多いな?と感じはじめ、手漉きのタイミングをこちらから知らせましょうかと打診してみたこともあった。先方のご厚意で、「手間をとらせません!」といった感じで聞き入れてはもらえなかったのだけれど。

 

結果的には1ヶ月一生懸命働いたときぐらいのお金が、ゆるゆると働いても手に入ったという感じだった。

おそらくフリーになりたての頃の自分なら無駄になった時間に胃を痛め、うまく回らない歯車にストレスを感じていたことだろう。だが現在収入面でそれほどガツガツしていない自分は、余暇があるのに一定の収入が入るという状況に満足していた。いや一般社会人と比べたら笑えない金額だし貯金は全然無いしお金はいつだって欲しいのだが。

自分的にはオイシイし、損は全くない筈なのに、精神的にモヤモヤするな…全く見ず知らずの縁もゆかりもない相手ならなんとも思わないのかもしれないけど。どう考えても相手が損をしている気がしてならない。

それに、仕事の出来や物量を見て今後の拘束依頼の有無が変わるのだとすれば、もう拘束は無いだろう。この、「次は無いだろうな」という予測がついてしまうのがモヤモヤの最たる部分なのではないかと思う。

自分は他人の評価を酷く気にするきらいがある。相手にとっては何十人と相手をしている仕事相手の一人であることは理解していながらも、「頼んだけど駄目だったな」と思われているのではないかと内心ハラハラしている。だから、拘束料は大変オイシイものではあったが気持ちよく受け取れたものではなかった。

それが4年以上付き合いのあった相手に抱かれた感想だと想像するだけで、居ても立っても居られない気持ちだ。今、忘れかけていたモヤモヤが、こうして記事にすることで蘇ってくるようだ。

 

…まぁそんなこといつまでも言ってても仕方ない。仕方ないよ。もう終わったことです。こうやって、スッキリ切り替えができるようになったのも、独立してから得た力のように思う。またふとした時に思い出すことはあるんだろうが。

仕方ないなら仕方ないなりに、次回、もし次回!拘束の依頼があったらそのときどう対処すべきか考えておいた方が建設的じゃないか?そう、まだ次回があると考えるくらいには絶望していないし能天気である。

 

~ご利用は計画的に~拘束契約

・何月まで、何話あるのか教えてもらう

・各話の進行スケジュールを共有してもらう

・月々のカット数めやすを相談する、してもらう

・仕事の出そうな曜日を教えてもらう

 

自分の考えた対策はこうだ。まず、一番大きなスケジュール、作品の終わりと話数を把握する。そのうち何話を作業するのか、作業する可能性のある話数の進行スケジュールを共有してもらう。これが有るのと無いのでは、先の見通し、予測に大きく差が出る。半拘束の場合、どのタイミングで他社を受けて良いか判断しやすくなる。勿論スケジュールは遅れてなんぼみたいなところがあるし、後ろになればなるほど詰まってくる。都度調整は必要だ。

月々のカット数目安(このぐらいはやってほしい、頼む予定がある)があればより判断材料になる。今月は予定より多かったor少なかったが数字で分かることで得られるものもあるだろう。契約前に提示した数字が、実際話数が動いてからは入ってこないなんてこともあるだろう。それはそれで、どこかしらで遅れがでているんだろうなと想像することができる。

更に細かいスケジューリングでは、週単位の状況把握。実は演出さんの出勤時間等の関係で、仕事が出やすい曜日というのがある程度決まってくるらしい。そういう「チェックする人」の机にどのぐらい仕事が積まれているかで「週末出そうな物量」を把握できるのだろう(ここを連絡してほしかった)。曜日がある程度分かっていれば、そろそろ入れの連絡があるな・・・?と予想できるかもしれない。

 

題して「いつ来るか分からない仕事に気をもんで待つより、全体像を把握することで少しでも推測と心の平穏を得よう」作戦。

 

・・・・

読んで「は?こんなことも共有してなかったの?」と思う方もいるかもしれません。一緒に仕事するんだから、頼まれたことやってるだけじゃ見通し悪いですね。状況把握と自分なりの推測が建てられる程度の情報があれば、もっと気持ちよく仕事ができるのでは?と思い至った今日この頃でした。

も・し!!次があれば!これを念頭に拘束には飛びついていこうと思います!